発音入門La prononciation
フランス語は「読み方の例外だらけ」に見えて、実はつづりと音の対応にはっきりした規則があります。このページでは、つづりと音の基本からアクサン記号、母音・子音の特徴、単語同士のつながり、発音記号(IPA)の読み方まで、発音のしくみを順番に整理します。まずは全体の考え方をつかみ、あとは各単語の発音記号と音声で少しずつ確認していきましょう。
1. つづりと音の基本
フランス語の発音でまず知っておきたいのは、つづり字と実際の音の対応関係です。ローマ字読みとは違う部分もありますが、いくつかの決まりを覚えれば単語の読み方は驚くほど予測できるようになります。ここでは基本となる3つの柱を見ていきます。
語末の子音字は読まないことが多い
フランス語の単語の最後にある子音字は、多くの場合発音しません。たとえばpetitの語末のtや、pourのr以外の部分は読まない、といった具合です。ただし例外もあり、c・r・f・lの4つの文字は語末でもそのまま発音されることが多いです。英語のcareful(注意深い)という単語のつづりで4文字を覚えると便利です。
hは発音しない
フランス語のhの文字は、単語のどこにあっても音を持ちません。hommeやheureのように、hの後ろの母音からいきなり発音が始まると考えてください。実はhには2種類あり、前の単語と音をつなげやすい無音のh(hミュエ)と、つなげるのを拒む有音のh(hアスピレ)がありますが、hの文字そのものが聞こえない点はどちらも共通です。
2. アクサン記号
フランス語のアルファベットには、文字の上や下に小さな記号が付くことがあります。これを飾り記号(アクサン記号)と呼び、母音の音を変えたり、同じつづりの単語を区別したりする役割があります。ここでは代表的な5種類を見ていきます。
é(アクサンテギュ)
éはeの上に右上がりの線が付いた文字で、飾り記号の一種(アクサンテギュ)と呼ばれます。日本語の「エ」に近い、口をあまり開けない、はっきりした閉じた音になります。フランス語の語末のeは通常読みませんが、éは必ず発音される点にも注意しましょう。
è(アクサングラーブ)
èはeの上に左上がりの線が付いた文字で、これも飾り記号の一種(アクサングラーブ)です。éよりも口を大きく開けて出す、日本語の「エ」よりやや広い音になります。同じeの文字でも、éとèでは口の開き方が変わることを覚えておきましょう。
ê(アクサンシルコンフレックス)
êは文字の上に山形の記号が付いた形で、飾り記号の一種(アクサンシルコンフレックス)です。発音はèと同じく口を大きく開けた音になり、特に長く伸ばして読む必要はありません。この記号は、昔の単語にあったsの文字が消えた名残であることが多く、être(〜である)はもともとestreというつづりでした。
ë・ï(トレマ)
eやiの上に点が2つ並ぶ記号は、飾り記号の一種(トレマ)と呼ばれます。トレマは「前の母音とくっつけず、別々の音として読んでください」という合図です。たとえばNoëlは、oëの部分を「オ」と「エ」のように分けて読むためにトレマが付いています。
- Noël クリスマス oとëを分けて読む
- maïs とうもろこし aとïを分けて読む
- naïf 素朴な aとïを分けて読む
ç(セディーユ)
cの下に付く小さなしっぽのような記号は、飾り記号の一種(セディーユ)です。文字cは本来a・o・uの前で「カ・コ・ク」に近い音になりますが、セディーユを付けることで「サ・ソ・ス」に近い音に変えられます。français(フランス語)のように、cの後ろにaが続くときによく使われます。
- français フランス語・フランス人
- ça これ・それ
- leçon レッスン・課
3. 母音
フランス語の母音には、2文字以上のつづりで1つの音を表す複合母音と、息が鼻に抜ける鼻母音があります。どちらも日本語にはない音の感覚なので、つづりと音の対応をひとつずつ確認していきましょう。特に「アン」と「オン」は日本語話者が混同しやすいポイントです。
ou は「ウ」に近い音
2文字以上の組み合わせで1つの音を表す母音を、複合母音と呼びます。ouは日本語の「ウ」に近い、唇をしっかり丸めた音になります。単独のuの文字が表す音(発音記号の項目で説明します)とは別の音なので、区別して覚えましょう。
au・eau は「オ」に近い音
auとeauは、どちらも同じ「オ」に近い、唇を丸めたはっきりした音になります。つづりは違っても音は同じなので、聞いただけでは区別できません。beau(美しい)やeau(水)のように、よく使う単語に多く登場するつづりです。
oi は「ワ」に近い音
oiは「オ」ではなく「ワ」に近い、唇をすぼめてから開く音になります。moi(私)やtrois(3)のように非常によく使われるつづりなので、早めに音の感覚をつかんでおくと便利です。
ai・ei は è と同じ音
aiとeiは、多くの場合さきほど紹介したèと同じ、口を大きく開けた「エ」に近い音になります。1文字ずつローマ字読みしないよう注意しましょう。
eu・œu は日本語にない丸めた「エ」
euとœuは、日本語にはない音です。唇を「オ」の形に丸めたまま「エ」と言おうとすると近い音になります。peu(少し)のように口をあまり開けない音と、sœur(姉・妹)のように少し口を開ける音の2種類がありますが、まずは「唇を丸めたエ」という感覚を持てば十分です。
an系とon系(「アン」と「オン」の違い)
母音が鼻に抜ける音を、鼻母音と呼びます。an・am・en・emは日本語の「アン」に近いですが唇は丸めず、on・omは唇をしっかり丸めた「オン」に近い音になります。日本語話者はこの2つを混同しやすいので、唇の形の違いを意識して練習しましょう。grand(アン系)とbon(オン系)を並べて発音を比べてみるとわかりやすいです。
4. 子音の要点
子音にも、フランス語らしい読み方の癖がいくつかあります。のどの奥でふるわせるrの音や、つづりの組み合わせで音が決まる字(gn・ch・qu・ille)、そして母音にはさまれると濁るsなど、代表的な要点を押さえましょう。
r はのどの奥でふるわせる
フランス語のrは、日本語のラ行のように舌先をはじく音ではありません。のどの奥をふるわせて出す、うがいをするときの音に近い音です。最初は難しく感じますが、繰り返し真似して練習するうちに感覚がつかめてきます。
gn は「ニュ」に近い音
gnは1つの音として扱い、日本語の「ニャ・ニュ・ニョ」に近い、舌の奥を上あごに付けて出す音になります。montagne(山)のように、gとnが並ぶとほぼ必ずこの音になります。
ch は「シュ」に近い音
chは英語のようなチャ行の音ではなく、日本語の「シュ」に近い音になります。chat(猫)やmarché(市場)のように、非常によく使われるつづりです。
qu は「ク」、ille は「イユ」に近い音(例外あり)
quはほぼ常に「ク」に近い1つの音になり、uの音は聞こえません。一方illeは多くの場合「イユ」に近い音ですが、ville(街)やmille(千)などいくつかの単語では例外的に「イル」と発音します。数は多くないので、出会うたびに個別に覚えていきましょう。
5. 音のつながり
フランス語は単語をひとつずつ区切って読むのではなく、文の中で音をなめらかにつなげて読みます。音をつなげて読むきまり(リエゾン)、もともと発音される子音をそのままつなげるしくみ(アンシェヌマン)、そして母音が重なるのを避ける母音の省略(エリジオン)という3つのしくみを見ていきます。
音をつなげて読むきまり(リエゾン)
フランス語では、本来発音しない語末の子音字が、次の単語が母音で始まるときだけ現れて発音されることがあります。これを音をつなげて読むきまり(リエゾン)と呼びます。vous avez(あなたは持っている)のように文法的にほぼ必ずつなげる組み合わせがある一方、et(そして)のあとや、有音のhで始まる単語の前ではリエゾンをしないという決まりもあります。
- vous avez あなたは持っている 義務のリエゾン。sが「ズ」の音で現れる
- les amis 友達たち 義務のリエゾン。sが「ズ」の音で現れる
- et il そして彼は 禁止の例。etの後はリエゾンしない
- un héros (1人の)英雄 禁止の例。有音のhの前はリエゾンしない
アンシェヌマン
アンシェヌマンは、もともと発音されている語末の子音を、そのまま次の単語の母音に続けて読むしくみです。リエゾンとは違い新しい音が現れるわけではなく、すでにある音が自然に流れ込むだけです。elle arrive(彼女は着く)のように、日常的にとてもよく起こります。
- elle arrive 彼女は着く
- il a 彼は持っている
- quelle heure 何時
母音を省略するきまり(エリジオン)
je・le・la・ne・queなど一部の単語は、次に母音で始まる単語が続くと、最後の母音を省略してアポストロフィでつなげます。これを母音を省略するきまり(エリジオン)と呼びます。母音が続くのを避けて、発音しやすくするためのしくみです。
- l'ami (男性の)友達
- j'aime 私は好き
- c'est これは〜です
6. リズムとイントネーション
フランス語のリズムは、日本語や英語とはかなり違います。単語ひとつひとつに強いアクセントを置くのではなく、文や句のまとまりの最後に軽く重みを置く、平らなリズムが基本です。疑問文の言い方も含めて確認しましょう。
強勢は句の最後・平らなリズム
日本語や英語では単語ごとにアクセントの強い部分がありますが、フランス語では単語1つ1つに強弱をつけません。代わりに、いくつかの単語がまとまった句や文の、一番最後の音節だけを少し長めに・少しはっきりと読みます。全体としては平らでなめらかなリズムに聞こえます。
- merci beaucoup どうもありがとう 最後のbeaucoupに重みが乗る
- s'il vous plaît お願いします 最後のplaîtに重みが乗る
- je ne sais pas わかりません 最後のpasに重みが乗る
疑問文は語尾を上げる
文の形を変えずにイントネーションだけで質問する場合、文の最後を上げ調子で読みます。英語のYes/No疑問文と似た感覚ですが、フランス語では語順をまったく変えずにこれだけで疑問文になる点が特徴です。
- ça va ? 元気? 語尾を上げて読む
- c'est bon ? いい? 語尾を上げて読む
- tu es prêt ? 準備できた? 語尾を上げて読む
7. 発音記号の読み方
この辞典では、単語の発音を国際音声記号(IPA)という記号で示しています。ほとんどはローマ字に近い感覚で読めますが、日本語話者が特につまずきやすい記号もあります。ここでは代表的な記号を、1つの記号につき1つの単語で確認します。
鼻母音の記号(ɑ̃ ɔ̃ ɛ̃ œ̃)
この辞典では、鼻に抜ける母音を母音記号+チルダ(波線)で表します。ɑ̃は唇を丸めない「アン」、ɔ̃は唇を丸めた「オン」、ɛ̃は唇を横に引いた「アン」、œ̃はɛ̃よりわずかに唇を丸めた音です。見た目は似ていますが、それぞれ別の音を指しています。
円唇の母音記号(ø œ y)とあいまいな母音(ə)
øとœは、唇を丸めたまま「エ」を出す、日本語にない音を表す記号です。yは唇を丸めた「イ」で、「ユ」に近く聞こえます。əは口の力を抜いて出す弱いあいまいな母音(シュワ)で、しばしば発音されなかったり弱く発音されたりします。
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